”私は私のゆく道を厭うてはいないの”

歳にしては小さな背筋をぴんと伸ばし、山神の嫁となる娘は そう言った。

”何もできない私が、唯一皆に返すことができること、だから”
”ねえ、八手。私、皆を守りたいの”

やわらかな声色で笑う娘は、先刻するりと眠りに落ちていった。

人の蔑みに触れてきた。
人の憎しみを知っていた。
人の愚かさを呪ってきた。
歩んだ地に残る轍が俺に教えたものだった。

小さな寝息が耳に届く。寒さから護るよう羽織を被せたのは、護る身であるから。
守ると言ったこの身体を、護るためにここにいるから。


頭をのせた膝に 体温がじわりと沁みた。




(ひとのあたたかさなど 知らなかった)