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標的138を読んだ時点での妄想があります。 そういうわけで、アルコバレーノのくだりはだいぶ嘘っぱち仕様です!あと死ネタです!(…) それでも読むぜ!という素敵な方はどうぞスクロールスクロール。 (※管理人はマーモン女の子希望ですが、どちらでも読めるようになっております) 「ボス、一応報告しとくよ。僕はもうもたない」 書類を捲くる手が一瞬止まった。それでも強い光を放つ瞳はそこに縫い止められたまま、そうか、と一言返事が返されると同時に、再び紙の擦れる音が部屋の空気を震わせた。常と変わらぬ彼の態度。マーモンはそれに安堵している自分を感じ、内心で嘲笑とも苦笑ともつかない笑みを浮かべた。それでいい。この人はこうでなくてはいけない。だから、自分の番が来た時は彼だけに報告するものと決めていた。この事実はきっと彼の口からボンゴレ十代目へと伝えられるだろう。その頃にはマーモンはたぶん、この世にはいない。 じゃあもう失礼するよ、そうマーモンは言い残し、闇色の隊服を翻して司令室を後にした。 自室に戻ると、司令室からずっとマーモンを運んできた巻き蛙がベッドの上に降ろしてくれた。マーモンが小さな両足を乗せると真っ白な羽根布団はふわりと沈む。隣からいつもの黒い姿になったファンタズマが気遣わしげに見上げてきた。少し動かすにも重たい手で頭を撫でる。ありがとう、ファンタズマ。最期まで僕と一緒に居てくれて。抱えきれないほどの感謝の気持ちを込めてもうひと撫ですると、黒い蛙はうれしそうに喉を鳴らした。 一歩進むと全身に裂けるような痛みが奔る。もう自らの足で歩くのさえ困難だ。マーモンはひとつ溜め息をつき、そのまま後ろに体重をのせ、やわらかなベッドに身をあずけた。研究の成果は全て書き記した。もうここでマーモンがやれることは何もない。マーモンはミルフィオーレとの抗争がまだ始まったばかりの時、その研究能力を買われ、ボンゴレの研究班と共に敵マフィアがもたらした急激な環境変化の解明にあたっていた。しかし、結果的にはそのために、 先日、青のおしゃぶりを持つコロネロが息を引き取った。知らせを受ける前から気付いていた。いくら断ち切ろうとしても切れないつながりは、彼らの死をマーモンに知らせ続けた。どれだけ忌み嫌おうと、マーモンがアルコバレーノの一人であるという事実は変わってはくれない。身体の奥にまたひとつ穴があいたような喪失感が沸きあがり、マーモンの頭を、身体を、心を、揺さ振った。次は自分なのだと、藍色は確信した。その時、マーモンは不思議とさっぱりとした気持ちになったのだ。自らに冠した強欲の名の通り、いつだって生に執着していたはずなのに、その時は、窓外に広がる空の青さを心地好くさえ感じたのだ。やっと終わる。そう思った。やっと終わるんだ。 呪われた虹たちは、これでやっと、本当に消え去ることができるのだ。 マフィア界では何百年も昔から虹が付き添っていた。同じ姿で生まれ、同じ姿で死んでいく。そして、雨が降れば虹が出来るように、やはりまた同じ姿で生を受ける赤ん坊たち。全てを見据えるかのような瞳は爛々と煌めき、産声ひとつ響かない出産風景は、まるで厳かな儀式のようであったと言われる。しかし、一度死んでも時が経てば再び繰り返される命に、人々は囁き始めた。これは――呪いだ、と。それが呪われた赤ん坊、アルコバレーノであった。だからマーモンは今でも輪廻など信じることが出来ないでいる。人は生まれ変わるのではない、また生まれるのだ。それは実感を伴った、信念と言ってもいい考えだった。再び生まれたところでやはり裏社会に属し、使われ、いずれは死んでいく。死の恐怖は幾度体験しても慣れるものではなかった。むしろ身体に染み付いた死の瞬間の感覚は、想像するだけで、マーモンの心臓を震わせた。死ぬのは こわかった。 何度も繰り返す人生にほとほと嫌気がさして、自ら行方をくらまし名も変えた。必ず呪いを解いてこの繰り返しを終わらせてやると潜んだ先は、やはりマフィアに違いはなかったが、暗殺部隊という闇の深遠はおよそ十年前のリング争奪戦までマーモンの消息を掴ませることはなかった。そうだ、マーモンがバイパーの名を捨ててヴァリアーに入隊したあの時から、もう十年以上たったのだ。 マーモンがその間必死に続けた研究は、本来の目的を果たせず、呪いは解けないままに月日は流れていった。春の陽気に草木が芽吹いても、夏の日差しが影を濃くしても、秋に舗道を枯葉が転がっても、冬の冷えた空気が白を散らしても、やはり呪われた赤ん坊は赤ん坊のままの姿で生きていた。血の滲むような努力を惜しまなかった研究の副産物は、今ではマモンチェーンとしてリングの存在を隠し、ボンゴレの存続に一筋の光を与えている。 それでも虹たちは死んでいった。 そしてそれはもう、二度と架かることはない。 それは赤ん坊たちの命を本当に終わらせるものだった。 マーモンがこれまで調べてきた呪いの研究結果を参照しても、9割方断定できる事実である。それが判明したのはちょうど黄色が消えた頃。アルコバレーノにとっては毒となるそれを浴び続けて死に至れば、もう再びこの世界に生まれ来ることはない。それはつまり、形は違えど、マーモンが望んできたことだった。死んでしまうことは勿論本意ではなかったけれど。 全てが終わる。その事実が、マーモンの心を軽くするとともに、死への恐怖も薄れさせたのかもしれない。現に今、締め付けられるような心臓の痛みにも拘らず、マーモンはとても穏やかな気持ちで窓ガラスの奥の青空を見上げている。ただ、たった一つだけ、その穏やかさの中にぽつりと滲むものがあることに、まだマーモンは気付かない。 ずきりと心臓の痛みが瞬間強くなり、身じろぎすると倒れた拍子にずれていた帽子が完全に外れた。大きな瞳の中に太陽の光が飛び込んできて、思わず目を細める。眩しいほどの金色。その色は一人の青年を連想させた。長いあいだ一緒にいた、ちっとも王子らしくない王子様を。 「なあマーモン、マーモンが死ぬ時はオレが殺してあげるよ」 「いきなりなに言ってんの、ベル。イっちゃってんのも大概にしてよね。大体、君にやられるような僕じゃない」 「言うねーマーモン。じゃあ反撃すりゃいいじゃん。本気のマーモンとの対決、ちょー面白そー!」 「僕は負けないよ」 「王子が負けるわけないじゃん?」 ししし、と独特の笑い声をあげて、至極楽しそうにベルフェゴールが笑う。談話室で一番低く、座り心地のいいソファに腰掛け、むっと口を閉じたマーモンはまた分厚い本のページを捲りはじめる。 まだベルフェゴールが文字通り王子と呼べる齢だった頃の、他愛無い会話の応酬だ。 その後、今に至るまで、ベルフェゴールは本当にことあるごとにマーモンに向かってナイフを投げつけ、それをマーモンは何百回何千回とかわしてきた。その行動があまりにしつこい時には幻術を使って王子を出し抜いたりもした。 それなのに、ベルフェゴールはやはりことあるごとにマーモンに好きだと言う。両手で小さな体を抱きしめ、頬に、おでこに、瞼の上に、雨のように唇を降らせてくる。好き、好き、大好きだよ、マーモン。王子の愛を独占なんてマーモンって罪つくりじゃね?うししっ! その王子とも、出会ってから十年以上経った。当然ベルフェゴールは成長し、背は伸び、細身だがしなやかで丈夫な体躯を身につけて、少年から青年へと変貌を遂げた。それでも相変わらずベルフェゴールはマーモンにナイフを投げつけたし、好きだと言って抱きしめた。十年以上経ったにも拘らず、あのふざけた口癖も、裏社会での異名もそのままだ。 ベルフェゴールを含む、ミルフィオーレとの抗争現場に向かったヴァリアー隊員達からの連絡は途絶えているという。この本部からは戦局がどうなっているのか掴めない状況だ。でも、とマーモンは思う。どうせ今この時もプリンス・ザ・リッパーはどこかで人を切り裂いているのだろう。嬉しそうに笑いながら、愛用のナイフを煌めかせ、辺りを真っ赤に染め上げて。マーモンは彼の安否を全く心配していない。信頼などではなく、絶対的な確信である。ベルフェゴールが誰かに殺されるわけがない。 マーモンがこの世を去ったと知ったら、彼はどうするだろう。いつものように、歯を剥き出してわらうだろうか。それとも、その手で切り裂けなかったことに不平をこぼすだろうか。きっとどちらかだ。ベルフェゴールはマーモンのために泣きはしない。たぶん、悲しみもしない。そもそもベルフェゴールにはそんな感情は欠落しているように見えた。自分と同じで、彼も泣かないこどもなのだ。いつまでたってもマーモンが赤ん坊のままなように、ベルフェゴールもただただ“王子”のままだった。 最後の最後だというのに、どうして浮かんでくるのが、命の次に大事な私財ではなく、あのいかれた王子のことばかりなのか。確かに死神役は似合っているけれど、いつかの宣言のように、マーモンを殺すのは、彼ではなかった。 心臓が締め付けられて、のどの奥から嗚咽のような声が漏れる。錆びついた味が舌に広がって、からまった。まぶたの重さに耐え切れずに眼を閉じると、少しだけ痛みがひいた気がした。 思い出すのは、いつも彼がまとう血のにおいではなく、抱きしめる腕のあたたかさだ。 (全く、君はさいごまで頭にくる奴だよ…) マーモンは呟いたつもりだったが、声になったかどうかはわからなかった。 くろい蛙がちいさくのどを鳴らして、藍がかった髪に鼻先を擦り付けた。 ふかく、ふかく、息を吸い込むと、浮遊感がからだを包む。 まぶたの裏に金色が灼きついて、きらめく。カーテンが重なり合って、透明な波がほおをなぜた。 あたたかなうでから、はなたれる、感覚。 さよなら、さよなら、 もうあうことはない、えいえんのおうじさま。 |
